テクノロジーは日進月歩。
テクノロジーを食に応用する動きも日に日に進化していると言えます。
食育には「伝統」「情緒」を大切にする性格もあるため、テクノロジーの入り込む余地が少ないように見えるかもしれませんが、実際にはテクノロジーの影響を受けます。
今回は、食に関するテクノロジーの進化と、それが食育に及ぼす可能性について、解説します。
<目次>
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1.フードテックとは
「○○テック」という言葉があります。
おそらく最初は「フィンテック(FinTech)」という言葉から始まりました。
フィンテックとは、
- Finance(金融)の Fin
- Technology(テクノロジー)の Tech
を組合せてできた造語。
「最新の科学時術を駆使して金融サービスを行う」という意味になります。
その後、「○○テック」という言葉がいろいろと生まれてきています。
1-1.アグリテック
たとえば「アグリテック」は
- Agriculture(農業)の Agri
- Technology(テクノロジー)の Tech
を組合せてできた造語。
「科学時術を駆使して農業をする」という意味になります。
自然を相手にする農業はテクノロジー的なものとは縁が遠いように見えるかもしれませんが、じつは農業に対してテクノロジーができることはたくさんあります。
たとえば
- 品種改良に使うバイオテクノロジー
- ドローンや人工衛星で作物の生育管理をする
- 農作業をするロボット
- 植物工場
などはすべて「アグリテック」です。
2-2.フードテック
今回のテーマ「フードテック」は
- Food(食)
- Technology(テクノロジー)の Tech
を組合せてできた造語。
「科学時術を食に応用する」という意味になります。
以下、どのようなものがあるか整理してみます。
2.料理の電子化
「IT技術の料理への応用」が進められています。
人間が食材や調理器具に触れることが減るため、衛生度は格段に上がります。
いっぽうで「心をこめて料理する」といった「情緒」はなくなります。
2-1.フードプリンタ
食品を作る3Dプリンタは「フードプリンタ」と呼ばれています。
3Dプリンタでクッキーなどの菓子を作ることができるのは、もはや当たり前のこと。
ニュースにもなりません。
しかし技術は日進月歩。
ハンバーガーを作れる3Dプリンタがすでに開発されています。
しかもそんな高度な3Dプリンタの価格が、すでに普及価格のレベルに下がっています。
今後は、技術の発達で3Dプリンタの「料理のレパートリー」が増えるでしょうし、一般家庭に普及するにしたがってさらに価格も下がってくるでしょう。
2-2.AIシェフ
数年前、独創的なレシピを考えだすAIが話題になっていました。
IBMのコンピューター「ワトソン」です。
ワトソンは、料理本も発売しました。
さらに、ワトソンが開発した料理を販売するフードトラックも登場しています。
人工知能の能力も日進月歩。
ミシュランで星を獲得する人工知能も遠からず誕生するでしょう。
2-3.調理ロボット
イギリスで開発された「Moley」という名の調理ロボットは、インターネットからレシピをダウンロードし、みずからキッチンで料理をします。
食材を切る、煮る、焼く、を行うのです。
もちろんこのロボットはどこぞの厨房で修行したわけではなく、人間の料理人が料理する過程を「学習」しています。
2018年には
「東京から板前が寿司を握るデータを転送し、アメリカのイベント会場でフードプリンタで出力する」
という実験が行われました。
「寿司テレポーテーション」という名前がついています。
こうした例は枚挙にいとまがありません。
要するに
「食べたいものをダウンロードして食べる=人間が調理をしない」
そういう世界が近づきつつある、ということなのでしょう。
AIがレシピを考える。
そのレシピをダウンロードして、フードプリンターが料理を作ったり、ロボットが調理をしたりする。
そんな未来が現実味を帯びてきました。
3.食事法の開発
「フードテック」は「IT」だけではありません。
医学の進歩が食に応用されるのも、ここでは「フードテック」と呼びます。
何を、どのように食べるとどんな効果があるのか…。
医学が進むにつれ、科学的に検証された食事法がいろいろと開発されるようになりました。
3-1.DASHダイエット
たとえば「DASHダイエット」と呼ばれる食事法は、高血圧を何とかしたい人のための日常の食べかたとしてその効果が確認されており、アメリカ農務省が推奨しています。
3-2.MINDダイエット
さらに「MINDダイエット」と呼ばれる食事法は、認知症を予防したい人のための日常の食べかたとしてシカゴのラッシュ大学が開発したもの。
どちらも、病院食ではなく日常の食事を普通に楽しみながら目的(効果)を目指すものです。
3-3.The Fertility Diet
そのほか、The Fertility Dietという食事法は、健全な排卵をうながし妊娠確率を高める食事法としてハーバード大学の2人の医学博士が開発したもので、30歳から55歳の女性看護師24万人の食生活を、40年近くのあいだ調査した結果から、考案しています。
4.食糧危機対策
日本の人口は減少していますが、世界全体では人口爆発しているのはご存知のとおり。
いずれ100億人に至るだろうと言われています。
そんな膨大な数の胃袋を現在の農業生産でまかなうのは、とても無理です。
そこで、フードテックを使った解決法が模索されています。
前述のように、「フードテック」は「IT」だけではありません。
バイオテクノロジーを食に応用することも、「フードテック」に含まれます。
4-1.遺伝子組み換え
遺伝子組み換え技術により農業生産効率をアップさせる方法。
ただしこれには反対も多い。
「ゲノム編集」という技術も注目されていますが、どのように活用されるかはこれからの課題となります。
4-2.植物性肉(プラントベース)
植物性の材料(野菜、果物、豆類、穀類、種実類、キノコ類、海藻類など)から作られた、動物性の食品に似せた食べものを指します。
「代替肉」とも呼ばれます。
世界的な菜食トレンドを背景に、近年、開発が非常な勢いで進んでいる分野であり、
- 植物性の牛肉
- 植物性の豚肉
- 植物性の鶏肉
のほか、
- 植物性の卵
- 植物性の魚肉
も作られています。
4-3.培養肉
牛や豚や鳥を食べなくてもいいように、培養肉で代用する方法。
牛や豚や鳥の筋肉細胞を、試験官で培養し、肉のように成長させます。
前述の植物性肉が「肉に似せたもの」であるのに対し、培養肉は原理的には「肉そのもの」です。
これにより食用の畜産が減ってくれば、家畜が食べる飼料(穀物が多い)も減ってくるので、その分を人類の食料に回せます。
現時点では
- コストがかかりすぎること
- 「試験管での人工培養」に違和感を持つ人が少なくないこと
が課題とされています。
4-4.昆虫食
良質のタンパク源として注目されています。
しかし、原形をとどめたままの料理ではもの珍しさやインパクトで一部の人に面白がられることはあるでしょうが、一般に普及するかどうかは不透明です。
そこで、
- 原形をとどめないこと
- 味・香り・見た目すべてが美味しくできていること
が肝要とされており、研究が進められています。
5.食育への影響
最新の科学技術を食に応用するという「フードテック」は、「伝統」「情緒」を大切にする食育の「価値観」を揺り動かすことになるでしょう。
新しい価値観に変化するのか、それともこれまでの価値観が生き残るのか…。
いずれにせよ現在のわたしたちは、「何が食育的に正しいのか」を、再考する時期にきていると思われます。
5-1.料理の電子化
料理の電子化が進めば、「食に対する人々のスタンス」が大きく変わるでしょう。
それにともない、食育で教える内容も変化するはずです。
従来の食育では、たとえば
「料理を手作りすることは素晴らしいことだ」
と語られることが多いと思われますが、料理の電子化が進んだあとでもこの価値観が維持されるかどうかは不明です。
5-2.食事法の開発
従来の食育では特定の食事法を解説することはあまりありませんでした。
しかし今回紹介した食事法はどれも医学的なエビデンスのあるものであり、そのような食事法を広める食育活動は意義のあることだと考えられます。
5-3.食糧危機対策
従来の食育で、バイオテクノロジーが賞賛されることは、まずありませんでした。
しかし、バイオテクノロジーには「人類の食料不足を防ぐ」「動物を殺さない」などの「大義名分」があります。
この大義名分と、「バイオ的な食に抵抗する情緒」とのせめぎあいが、これから激しくなっていくと考えられます。
6.まとめ
科学技術を食に応用することを「フードテック」といいます。
フードテックには、
- 料理の電子化(IT)
- 食事法の開発(医学)
- 食料危機対策(バイオ)
という3つの分野があります。
フードテックはいわゆる「従来の食育」とは相性がよくないため、今後は、価値観のせめぎあいが起きてくることが予想されます。
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