食育活動をしている人の多くは
「フリーランサー」
と呼ばれる分類に属しています。
サラリーマンと違い、すべて自分でやらなくてはならず、収入も安定していません。
もっとよい活動をするために、もっと多くの食・健康・農業の知識を学ばなければ…と焦る人も多いようです。
もちろん、そうした専門知識を増やすことは良いことですが、ここで少し方向を変え、マーケティングを少し学んでみてはどうでしょうか。
ここでは、食育活動にも使えるマーケティングの基本的な要素について、解説します。
<目次>
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1.マーケティングの基本
マーケティングは6つの要素で構成されています。
まずはその6つを覚えましょう。
その6つとは
- ドメイン
- ターゲット
- 商品
- 価格
- プロモーション
- 流通チャネル
この6つです。
この6つの要素を
- 矛盾なく
- 有機的に
組み合わせることを
「マーケティング・ミックス」
といいます。
「矛盾なく」「有機的に」というところが肝心です。
今回はこの6つの要素のうち
- ドメイン
- ターゲット
- 価格
について解説します。
2.ドメインについて
ドメインとは、「自分の食育活動の本質を短い言葉で表現したもの」です。
ようするに、初対面の人に
「あなたは何をしている人ですか?」
と聞かれたときに、分かりやすく答えることができれば、それがドメインです。
マーケティングを考えるとき、まずはドメインを設定するところから始めます。
ドメインの設定がしっかりしていないと、その後のプロセスは定まりません。
ドメインは、マーケティング全体を支える基礎なのです。
初対面の人に「あなたは何をしている人ですか?」と聞かれました。
さあ、答えを考えてみましょう。
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ドメインには、
- 上手なドメイン
- 下手なドメイン
があります。
- 具体的に何をしているかがイメージしやすいもの=上手なドメイン
- 具体的に何をしているかがイメージしにくいもの=下手なドメイン
です。
上手なドメインの例
「あなたは何をしている人ですか?」
「わたしは、男性ビジネスマンを対象に料理教室を実施しています」
下手なドメインの例
「あなたは何をしている人ですか?」
「わたしは、笑顔をクリエイトする活動をしています」
この違い、分りますよね?
「笑顔をクリエイトする活動」と言われても、何をしているのかイメージしにくいです。
美味しい料理を作って食べる人に喜んでもらっているのか…
サプライズな誕生パーティを企画しているのか…
和気藹々(わきあいあい)とした農業体験ツアーを主催しているのか…
どれも、それなりに「笑顔をクリエイト」していますね。
さらにいえば、お笑い芸人の方々はそれこそ「笑顔をクリエイトする」ことを職業にしています。
このような、いろんな解釈のなりたつ表現は、ドメインとしては上手とはいえません。
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ではなぜ、
- 具体的に何をしているかがイメージしやすいもの=上手なドメイン
- 具体的に何をしているかがイメージしにくいもの=下手なドメイン
なのでしょうか?
ドメインが上手だと、どんなメリットがあるのでしょうか?
じつは、ドメインの表現のしかたが上手であればあるほど、食育活動は広がりやすくなります。
たとえば、あなたは昨日、あるパーティで2人の初対面の人(Aさん、Bさん)に出会ったとします。
2人とも、とても魅力のある人物でした。
Aさんは、自分のことを「男性ビジネスマンを対象に接待に役立つ料理の知識を教えています」と説明してくれました。
Bさんは、自分のことを「笑顔をクリエイトする活動家です」と説明してくれました。
さて、今日になってあなたのところに友人のビジネスマンから電話がかかってきました。
ビジネスマンは言いました。
「食育の講演会を開くのですが、最近面白い活動をしている人を知りませんか? 紹介してほしいのですが」
あなたはAさん、Bさん、どちらを紹介するでしょうか。
この質問を多くの人に投げてみると、ほとんどの人はAさんと答えます。
AさんはBさんより紹介しやすいのです。
Aさんの活動は分かりやすい表現になっているので、あなたもAさんのことを友人のビジネスマンに説明しやすい。
一方、Bさんのことを誰かに説明するのはたいへんです。
実際はBさんも面白い活動をしているのかもしれませんが、「Bさんは笑顔をクリエイトする活動家です」と言われても、聞いたほう方は意味が分からず戸惑うだけでしょう。
つまり、ドメインの表現が分かりやすい人は、紹介されやすい。
紹介されやすいということは、仕事にもつながりやすい。
つまり、ドメインを分かりやすくすると、仕事の話が来る確率も上がるのです。
分かりやすい表現でドメインを作る。
このことはよく覚えておきましょう。
また、同様の理由で、名刺に自分の活動内容を記載するときも、分かりやすい表現をするように心がけましょう。
「スマイルクリエイター」みたいな漠然とした表現にするよりは、「食べて健康になる方法を教えます」のほうが、その後の仕事にはつながりやすいです。
3.ターゲットについて
次は「ターゲット」です。
「誰に対して食育活動をするのか」
ということです。
ターゲットはできるだけ絞ることが望ましいとされています。
たとえばあなたはお店を開く予定だとしましょう。
「あなたのお店にはどんな人に来てほしいですか?」
と聞かれたときに、
「若い女性に来てほしいですけど、年配の女性にも来てほしいし、男性にも来てほしい」
と欲張りな答えをしていてはいけません。
若い女性が来る店と、年配の女性が来る店と、男性が来る店では、
- 品物
- 店の様子
- 店員の接客のしかた
- 店の場所
- 価格
などが全部、大きく違ってくるからです。
それをいっしょくたにしてしまうと、なんだかわけのわからない店になってしまいます。
そうならないためにターゲットをきちんと決め、そのターゲットが喜んでやってくるような店づくりが重要になります。
というわけで、ターゲットは絞りましょう。
ただし、いい加減に絞ってはいけません。
ターゲットを絞るときは、いちど、思い切って「たった1人」に絞ります。
その「たった1人」というのは、実在の人物でも構いませんし、そうでなくても構いません。
実在の人物の場合:
(例)友人の○○さんをターゲットとし、チョコレートの新商品を開発する
(例)有名人の△△さんをターゲットとし、レストランを開く
架空の人物の場合:
作家が小説の主人公の人物像を作るように、ターゲットの人物像を作ります。
その人は女性なのか男性なのか、年齢はいくつなのか、どこに住み、どんな仕事をしているのか、収入はどのくらいなのか、家族はいるのか、趣味は何か、食べ物の好き嫌いはあるか…。
そうしたこと(「属性」といいます)をノートに書いていき、人物像を具体化します。
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なぜ、ターゲットはたった1人に絞るべきなのでしょうか?
たった1人に絞ったら、その人しかお客さんにならないのではないでしょうか?
そうではありません。
お客さんはたくさんいます。
その理由を説明します。
たとえば、あなたがターゲットを
「32歳女性、独身、キャリアウーマン、都心に本社のある食品会社の企画部門に勤務、神奈川県出身、1人暮らし、買物は青山ですることが多い、妹がいる、恋人とは昨年別れた、ペットは飼っていない、好きな食べ物はタイ料理、趣味は写真撮影、飛行機が嫌いなので海外旅行などはしない…(条件はまだまだ続く)」
といったふうに絞ったとしましょう。
で、あなたはこの人が喜ぶような商品やサービスを考え出していくわけです。
さて、この条件をすべて満たす人は日本にどのくらいいるでしょうか。
完全に当てはまる人はいないかもしれません。
いたとしても、数人しかいないと思われます。
期待値としては、平均で1人という感じでしょうか。
つまり、ターゲットがたった1人に絞られていると言ってもよいですね。
ところが、この条件に完全に一致していなくても、「だいたい一致しているが、少し違っている人」はじつは大勢いると思われます。
たとえば「32歳でなく33歳。食品会社ではなく旅行会社の企画部門に勤務。東京都出身。あとの条件は同じ」という人もいるでしょうし、「32歳で独身だけど恋人がいる。買物は青山でなく銀座でする。好きな食べ物はタイ料理ではなくベトナム料理。あとの条件は同じ」という人もいるでしょう。
つまり、ターゲットにどこか似ている人は数多くいます。
たった1人のターゲットのために生み出された商品やサービスではありますが、これらの「似ている」人々の多くがじつは顧客になります。
もうすこし範囲を広げ、「ターゲットの条件に半分くらい一致する人」となると、それこそ何千人、何万人、あるいは何十万人といるかもしれません。
これらの人々の半分くらいは、「たった1人のターゲットのために生み出された商品やサービス」を、買ってくれるでしょう。
商品やサービスじたいは「たった1人のターゲット」を想定して生み出されるわけですが、結果として生み出された商品を買うお客さんは、じつはたくさん存在しているのです。
4.価格について
価格(値段)の話をします。
つまり
- 講演のギャラ
- 講座の受講料
- 開発した食品の売値
- レシピ原稿料
などの金額の話です。
4-1.価格の決め方
そうした価格はどうやって決めたらよいのでしょうか。
とくに大儲けをしなくてもいいけど、頑張った分の報酬や利益は欲しいですね。
だからあまり安くしたくはありません。
でも、高すぎると買ってもらえないし…。
「過去、自分で何かに価格をつけたことがある」
という人に、どうやって価格を決めたかを聞いてみると、ほとんどの人が
- コストを計算し、そこに適正と思われる利益を乗せる
- 似たような商品がほかでいくらで売られているか(=相場を)を調べ、それに合わせる
このどちらかの方法で、価格をつけているようです。
前者は「コストプラス方式」などと呼ばれます。
後者は「市場価格方式」などと呼ばれます。
どちらも価格のつけかたとして間違いではありません。
しかし、食育活動をしている方々には、どちらの方式もお勧めしません。
コストプラス方式や市場価格方式とは、異なる価格の決めかたをお勧めします。
それは、「価値にもとづく価格の決めかた」です。
なぜなら「コストプラス方式」はお客さんのことを無視したやりかたですし、「市場価格方式」はどこにでもあるありふれた商品(コモディティといいます)に適した価格設定方法だからです。
お勧めするのは「価値にもとづく価格の決めかた」です。
コストも相場(市場価格)も関係ありません。
お客さんから見た、商品の価値を尊重して、価格設定をするのです。
具体的には、お客さんが商品と値段を見たときに
「いいな。ほしいな。でもちょっと高いな。どうしよう…」
としばらく悩み、最後に
「迷ってもしょうがない。買っちゃえ」
と買ってしまう値段のことです。
これが、「価値にもとづく価格」になります。
「しばらく悩み」の「しばらく」とはどのくらいの期間かというと、数時間~半日といったところでしょうか。
価値と値段がつりあっているとき、人はこのような反応をします。
クツやカバン、スーツなど、ちょっといいものを買おうとデパートなどに行ったとき、
「ほしいものに限って、少し予算より高い」
そのために迷ったり悩んだりした経験のある人は少なくないでしょう。
これこそが、価値と値段がつりあっているときの人間の反応です。
なので、この「しばらく悩む価格」は、「価値にもとづく価格の決めかた」つまり、適正価格だと言えるわけです。
4-2.価格の持つ3つの働き
価格には
「消費の痛み」
「品質をはかるヒント」
「消費の快感」
という3つの働きがあると言われています。
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「消費の痛み」
お金を払うとき、人間は「痛み」を心に感じながら支払っています。
それはそうですね、大事なお金ですから、払うときには大なり小なり何らかの不快な気持ちが出てくるものです。
この不快な気持ちは、とくに「コモディティ」と呼ばれるものに対してお金を払うときに強く発生します。
コモディティとは、「どこにでもある、ありふれたもの(普段すぐに買えてしまうもの)」のことです。
たとえば
- 手紙を出すときに買う、80円切手
- 山手線に乗るときに買う、切符
- コンビニに置いてある、単三電池
などです。
少し違和感があるかもしれませんが、
- 電気、ガス
- 携帯電話の通話料金
などもコモディティに含まれます。
こうしたコモディティにお金を払うとき、人は「痛み」を強く覚えます。
金額が小さい場合でも、その「痛み」の大きさは変わりません。
そのために、コモディティに対する支払を「うっかり忘れてしまう」という人も少なくありません。
嫌なことはなるべく忘れていたい(意識から遠ざけたい)という気持ちがそうさせるのです。
そこで、コモディティを販売している企業のほうでは、
「消費の痛みを人々に感じさせない工夫」
を一生懸命考えています。
その結果、たとえば鉄道会社のSUICA、TOICA、ICOCAといったカードが誕生しました。
こうしたカードを自動改札機にかざすだけでよくなり、財布を開いて切符を買う必要がなくなったため、利用者が「痛み」を感じる
機会は減りました。(これにより乗客数は増えたのではないかと思いますが、未確認です)
電力会社、ガス会社、携帯電話の会社などが「料金の銀行自動引き落とし」を利用者に勧めるのも、「消費の痛みを緩和することで、
たっぷり利用してもらい、かつ支払いをうっかり忘れられることがないようにする」という意図もあるのだと思います。
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「品質をはかるヒント」
風邪気味のあなたが、クスリを買いにドラッグストアに入ったとしましょう。
そこで薬剤師が、
a) 150円のクスリ
b) 1,500円のクスリ
c) 15,000円のクスリ
を出してきました。
さあ、あなたはどれを買いますか?
よほどの天邪鬼(あまのじゃく)な人でない限り、b) 1,500円のクスリを選ぶのではないでしょうか。
その理由はたぶんこうです。
「ちょっと風邪気味だというだけで、15,000円のクスリはいくらなんでも高すぎる。かといって、150円のクスリはあまりに安すぎ、なんだか怖い」
したがって、消去法で1,500円のクスリが選ばれるというわけです。
でも、本当に「150円のクスリは安すぎて怖い」のでしょうか?
もしかしたら、製薬会社が画期的な方法で、クスリの原価を下げることに成功したのかもしれません。
広告宣伝をいっさいせずに、お客さんのためにコストを抑えているのかもしれません。
そうした可能性があるにも関わらず、あなたは価格だけを見て、b) 1,500円のクスリを選びました。
これが、「品質をはかるヒント」としての価格の働きです。
価格を見て、あなたは品質を判断したわけです。
この現象を企業の立場から見ると、こうなります。
安くすると、売れなくなることがある。
=値上げしたほうが、売れることがある。
たとえコストを安くすることができたとしても、そのまま正直に値下げをすると、売れなくなってしまう…
そういう不合理な場合があるのです。
▽
「消費の快感」
「消費の快感」は、「消費の痛み」と逆の現象です。
ものを買う(お金を払う)とき、場合によっては人は「楽しさ・気分の良さ」を覚えることがあります。
スペシャルティと呼ばれるものにお金を払うとき、この「消費の快感」が発生します。
スペシャルティとはコモディティの反対語です。
「どこにでもある、ありふれたもの」を指す言葉がコモディティでした。
いっぽう、スペシャルティは、「希少価値のあるもの」を指します。
スペシャルティにお金を払うとき、「消費の快感」が発生します。
たとえば、こういうものです。
- たまに出かける海外旅行
- 海外旅行で買った贅沢なカバン
- 有名人が講師をするセミナー
- 高級レストランでの食事
などなど。
興味深いのは、「消費の痛み」も「消費の快感」も、同じ人物のなかで発生する心理だということです。
山手線で160円の切符を買うのをいやがり、電力会社からの3,000円の請求書に顔をしかめるその同じ人が、自分の気に入ったカバンには
喜んで何万円も払ったりする…。
そんな話を、おそらくあなたも聞いたことがあるのではないかと思います。
4-3.コモディティとスペシャルティ
コモディティとスペシャルティですが、価格を設定するとき、この両者は考え方が異なります。
コモディティは「どこにでもある、ありふれたもの」ですから、競争相手(類似商品)がそこらじゅうにいます。
この場合、「相場価格」というものが形成されます。
したがって、コモディティに値段をつけるときは「相場」を調べ、相場どおりつけてください。
相場より高くつければ売れませんし、相場より安ければ利益が減ります。
これに対し、スペシャルティには競争相手(類似商品)がいませんので、相場も存在しません。
この場合、「価値にもとづく値段の決め方」を採用します。
具体的には、お客さんが商品と値段を見たときに「いいな。ほしいな。でもちょっと高いな。どうしよう…」としばらく悩み、最後に
「迷ってもしょうがない。買っちゃえ」と買ってしまう値段のことです。
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モノやサービスに値段(価格、料金など)をつけるときは、まずそれが
- コモディティなのか
- スペシャルティなのか
を考えます。
コモディティは、「どこにでもある、ありふれたもの」です。
コモディティには競合(競争相手)がたくさんあります。
そのため、コモディティには「相場」というものが存在します。
コモディティに値段(価格、料金など)をつけるときは、「相場」を調べ、「相場」どおりにつけましょう。
それが、コモディティの「価値」だからです。
スペシャルティは、「珍しいもの、新しいもの、オリジナルなもの、特異なもの」です。
スペシャルティには競合(競争相手)はいません。
したがい、スペシャルティには「相場」が存在しません。
スペシャルティに値段(価格、料金など)をつけるときは、 「ちょっと高いのではないか?」と心配になる価格をつけましょう。
それが、スペシャルティの「価値」だからです。
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では、振り返って、あなたが提供しようとしているモノやサービスは、コモディティでしょうか?
それとも、スペシャルティでしょうか?
5.まとめ
マーケティングの6つの要素を組み合わせることを「マーケティング・ミックス」といいます。
今回はその中から「ドメイン」「ターゲット」「価格」について、食育活動とのかかわりを解説しました。
それぞれの要点は以下のとおり。
- ドメインとは、自分の食育活動の本質を短い言葉で表現したもの
- ターゲットとは、「誰に対して食育活動をするのか」を明らかにすること
- 食育活動における価格は、価値にもとづいて決めること(コストプラス方式でもなければ、市場価格方式でもない)