ある人がスーパーマーケットで買い物をしているとしましょう。
その人はその場では「消費者」に該当するかもしれません。
しかし、「消費者である」ということはその人のさまざまな側面のほんの一部にすぎません。
その人は、家に帰ればだれかの「家族」であり、会社に行けば「社員」であり、会社への行き帰りに電車に乗っているとすれば「乗客」であり、週末にサークル活動をしているなら「サークルのメンバー」になるわけです。
「単なる消費者」は、1人もいません。
似たようなことが農業についても言えます。
「単なる農業」は、1つもないのです。
どういうことでしょうか?
<目次>
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1.「農業の多面的機能」とは
農業とは何でしょうか。
「(植物性の)食料生産をする業」というのが、もっともシンプルな答になるでしょう。
たしかに、農業は人間が生きるために必要な食料生産の役割を担っています。
しかし、農業は単にそれだけでの存在ではありません。
- 農地をとりまく自然環境
- 農産地域で育まれた伝統文化
などが、農業に「単なる食料生産」以上の価値を与えています。
こうした要素は「農業の多面的機能」と呼ばれています。
一般に「農業の多面的機能」といえば、
- 国土の保全(田畑には洪水や土砂崩れを防ぐ働きがある)
- 水源のかん養(水田には地下水を豊かにする働きや川の流れを安定させる働きがある)
- 自然環境の保全(農地は多様な生物の生息の場所になる)
- 良好な景観の形成(周囲の自然の美しさを農業が守っている)
- 文化の伝承(それぞれの農産地で、固有の文化が継承されている)
- 保健休養(都会の人々が農産地を訪れると、癒される)
- 地域社会の維持活性化(作物の運搬や加工品の製造など、農業周辺の仕事が維持される)
- 食料安全保障(国内で食料が生産できるという安心感の醸成)(※)
が挙げられます(農林水産省ウェブサイトによる)。
つまり、農業は「単なる農業」ではない、ということです。
2.「農業の多面的機能2.0」とは
「農業の多面的機能」という概念は、以前から存在していたものです。
2014年には、「農業の多面的機能」を活性化させるための法律が制定されています(※※)。
いっぽう、「農業の多面的機能2.0」は、食育総研による造語です。
- もともとの「農業の多面的機能」の中から、新しい展開アイデアを考える
- もともとの「農業の多面的機能」に新たな要素をつけ加え、活用アイデアを考える
ことを指します。
2-1.もともとの「農業の多面的機能」の中から、新しい展開アイデアを考える
農家は長生きだというデータがあります。
http://www.jacom.or.jp/nousei/news/2017/06/170630-33086.php
https://agri.mynavi.jp/2017_08_16_3852/
「豊かな自然環境で日光を浴びながら仕事をし、採れたての作物を毎日口にしていれば、きっと健康でいられて都会のストレスなどは関係ないだろう…」
実際はそう単純なものでもないのでしょうが、農業生活にはそういう牧歌的なイメージがあると思われます。
実際に統計をとってみると農家は長生きのようです。
もし、このように農家の仕事や暮らしが心や体の健康にプラスになるなら、
「農業体験を癒しの場として使う」
そういう展開のしかたが考えられます。
「農業の多面的機能」の1つにある、「保健休養(都会の人々が農産地を訪れると、癒される)」をもとにした、展開の1つになります。
農業体験には癒し要素のほかにも以下のようなことが期待できると思われます。
- 農作業で体力がつく
- 農的な価値観を持つ人々との会話を通じて視野が広がる
- 共同作業することでコミュニケーション能力が養われる
- 生命について考えるよい機会になる
「農業体験を癒しの場として使う」は実際にも行われています。
アメリカには「セラピー農場(Therapeutic Farm)」と呼ばれる農場形態が存在しています。
また、
「疲労とストレスのたまった都会のビジネスマンを、定期的に農場に案内するツアー」
という会員制のビジネスも可能化もしれません。
2-2.もともとの「農業の多面的機能」に新たな要素をつけ加え、活用アイデアを考える
実際にある事例ですが、婚活の企画に
「農場で婚活をする」
というものがあります。
男女がともに畑仕事をしながら親睦を深めていく、という企画です。
自治体が主催するものや、企業が主催するものもあります。
これはもともとの「農業の多面的機能」からはなかなか出てこない発想です。
3.まとめ
「単なる農業」というものは存在せず、農業にはさまざまな機能があります。
食料生産をする以外にも、付加価値があるということになります。
これを「農業の多面的機能」と言います。
「農業の多面的機能」の活用を柔軟に考えることを食育総研では「農業の多面的機能2.0」と呼んでいます。
(※)知られているように日本の食料自給率(カロリーベース)は先進国のなかで最も低い状態が続いています。
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