大昔の人類にとって食事とはシンプルに空腹を満たすもの でした。
ところが 文明が発達するにつれ、食事には空腹を満たす以外の意味も加わってきました。
たとえば
- 栄養を摂る
- 美味しさを楽しむ
- 人とのコミュニケーション
- 体調を整える
- ストレス解消
- 「食べる」ではなく「作る」すなわち料理を楽しむ
など。
こうした流れ、すなわち「食事に多彩な意味づけをする」という流れの先に「目的を持った食事法」が生まれてきているのが、現代の食育における世界共通の特徴の1つ です。
今回は、「食事法」について解説します。
<目次>
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1.食事法とは
食事法とは、
- 目的をもって計画的に食事をすること
- 目的をもって食事内容をコントロールすること
を意味します。
自由に食べたいものを食べ、飲みたいものを飲む、というのとは反対の概念です。
ここでいう「目的」とは
- 体重を落とす(いわゆる「ダイエット」※)
- 体力をつける
- 集中力や記憶力を高める
などを指します。
このうち「病気を治すこと」を目的とした食事法のことは、「食事療法」とも言います。
1-1.食事法の構成要素①
通常、食事法は4つの要素から成り立っています。
1つは、「何を食べるか」です。
「何を食べるか」を定めるということは、「何を食べないか」を定めることでもあります。
すなわち
- 積極的に摂るべき食べもの
- なるべく避ける食べもの
を定めます。
言いかえると
- 積極的に摂るべき栄養素
- なるべく避ける食品成分
を定めることでもあります。
たとえば「血圧をコントロールすること」を目的とした食事法の場合、
- 積極的に摂るべき食べもの:カリウムの豊富な野菜
- なるべく避ける食べもの:塩分の濃い食べもの
となるでしょう。
1-2.食事法の構成要素②
食事法の2つ目の要素は「どのくらい食べるか」、すなわち「量」です。
「量」は、年齢や性別により異なるのに加え、「目的」によっても異なってきます。
たとえば
- ラグビー選手が瞬発力や筋力を高める目的で食べる量
- マラソン選手が持久力を高める目的で食べる量
は、同じではありません。
なお、とくに「目的」がない場合に、平均的な日本人がどのくらいの量を食べるのがよいかについては、厚生労働省が策定した「日本人の食事摂取基準」が参考になります。
1-3.食事法の構成要素③
食事法の3つ目の要素は「いつ食べるか」、すなわち「タイミング」です。
タイミングには
「1日のうち、いつ食べるのか:朝なのか昼なのか夜なのか、起きてすぐなのか寝る前なのか、など」
という切り口のほか、
「試合の1週間前」「受験当日」
など、”Xデー”を想定した切り口もあります。
食事のタイミングについては、「時間栄養学」と呼ばれる研究分野が近年、注目されています。
時間栄養学は
- 食べるタイミング
- 食べる速さ
- 食べる順番
などを考慮した栄養学です。
1-4.食事法の構成要素④
食事法の4番目(最後)の要素は「どう食べるか」です。
- 生鮮食品のまま食べるのか、料理して食べるのか
- どのような料理で食べるのか
- 丸ごと食べるのか、部分的に食べるのか
- 加工食品を許容するかしないか
などを定めます。
2.食事法の例
食事法には
「健康のため糖質を控えめにする」
といった単純なものから、
「専門家の指導のもとに厳格に行う」
といったプログラム化されたものまで、さまざまな種類があります。
ここでは、食育の分野で知られている食事法をいくつか紹介します。
2-1.国が推奨する食事法
「健康な食生活」は、どの国にとっても重要な課題です。
そのため、多くの国では、政府が「公式の食事法」を策定し、国民に向けて啓発活動をしています。
(例)
- 日本:食事バランスガイド
- アメリカ:アメリカ人のための食生活指針
- イギリス:Eatwell Guide
- シンガポール:My Healthy Plate
2-2.DASH
「DASHダイエット(DASH食)」は、Dietary Approaches to Stop Hypertension の略。
アメリカ国立心臓・肺・血液センターが開発した食事法です。
もともとは高血圧患者のための食事法でしたが、食育の専門家からの評価も高く、一般向けの食事としても推奨されつつあります。
アメリカ農務省もこの食事法の普及に力を入れています。
2-3.MIND
「MINDダイエット(MIND食)」は、Mediterranean-DASH Intervention for Neurodegenerative Delay の略。
認知症予防のために開発された食事法です。
シカゴにあるラッシュ大学が、DASHダイエットと地中海食を組合せて考案しました。
2-4.スポーツ食
スポーツ食は文字どおりスポーツ選手を対象にした食事法です。
スポーツ選手の
- 体調管理
- 筋力向上
- 持久力向上
などを目的とします。
「スポーツ栄養」「アスリート食」などとも呼ばれます。
2-5.ブレインフード
ブレインフードとは、「脳の働きを良くする食事法」のこと。
- 記憶力
- 集中力
- 精神状態
に良い影響を与えることを目的とします。
ブレインフードは、以下のような分野での応用が期待されています。
- 認知症予防の食事
- 仕事のパフォーマンス向上(健康経営)のための食事
- メンタルヘルスのための食事
- 学力増進のための食事
- 脳という臓器そのものの健康維持のための食事
3.食事法の作り方
「オリジナルの食事法を作り、食育活動に活かしたい」
という人のために、食事法の作り方の大まかなポイントを記しておきます。
3-1.食事法の共通点
前章で挙げたものの他にも、世の中にはさまざまな食事法が存在しています。
しかし中身をよく吟味してみると、じつはどの「食事法」も内容は似ているということが分かります。
どの「食事法」も、
- 野菜を食べることを重視する
- 栄養バランスを重視する
- 新鮮な食品を食べることを重視する
- できるだけ地元の食べものを選ぶことを重視する
という点でだいたい一致しています。
「アマゾンで採れたタイガーナッツだけを365日食べることを重視する」、といったような特殊な主張をしている食事法はありません。
実際の「食事法」は
- 特殊ではなく中庸である
- 偏食ではなくバランスを重視する
という点でどれも共通しています。
これは、DASH食やMIND食のような科学的なエビデンスの存在している食事法でも、変わりありません。
(その意味で、誤解を恐れずに言えば、オリジナルの食事法を作るのは、意外に簡単です)
3-2.作り方
前述したように食事法には構成要素があります。
- 何を食べるか
- どのくらい食べるか
- いつ食べるか
- どう食べるか
この4要素です。
これらを、「目的」に適した形で記述することで、食事法ができあがります。
記述する際には、
- 野菜を食べることを重視する
- 栄養バランスを重視する
- 新鮮な食品を食べることを重視する
- できるだけ地元の食べものを選ぶことを重視する
を忘れないようにします。
4.食事法の広め方
食事法にはさまざまな種類がありますが、どれをとっても、基本的には健康によいものばかりです。
たとえばブレインフードは「脳の働きを良くする食事法」ですが、その内容をよく吟味すると、
- 健康に良いとされる食べものや食べ方が、ふんだんに取り入れられている
ということが分かります。
食事法は、その種類を問わず、健康によいと考えてよいでしょう。
つまり、
「どんな食事法であれ、それを広めることは人々の健康に寄与するので、食育的に正しい」
と言えます。
では食事法を広めるにはどういたらよいでしょうか?
いくつか考えられる方法を挙げておきます。
4-1.カウンセリングやコーチング
1つには、その食事法にもとづいて
- 食事のカウンセリングをする
- 健康のコーチングをする
という方法が考えられます。
(例)「パレオフード」という食事法があり(※※)、アメリカでは「パレオフードにもとづく食事のカウンセラー」が人気を博しています。
4-2.講座や検定試験
4-3.飲食店
1つには、その食事法にもとづいた料理を、飲食店で提供する、という方法が考えられます。
(例)
- マクロビオティックの料理を提供する飲食店
- ビーガン料理を提供する飲食店
- スポーツ食を提供する飲食店
など
4-4.商品開発
食事法にもとづいた商品(食品)を開発し、販売するという方法も考えられます。
(例)
- マクロビオティックの食品が実際に販売されています。
- ビーガンのラーメン(袋麺やカップ麺)が実際に販売されています。
5.まとめ
食事法とは、目的をもった食事のプログラムを指し、「何を食べるか」「どのくらい食べるか」「いつ食べるか」「どのように食べるか」の4要素で構成されています。
食事法の例としては、DASH、MIND、スポーツ食、ブレインフードなどがありますが、他にもさまざまな種類があります。
多くの食事法は、目的が異なるという点ではユニーク(独特)ですが、健康に良いという点では共通いているので、ここを理解すれば、オリジナルの食事法を作ることができます。
食事法を広めるには、カウンセリングやコーチング、講座や検定試験、飲食店、商品開発などの方法があります。
(※)日本では「ダイエット=体重を落とす(痩せる)」とされていますが、英単語としてのダイエット(diet)本来の意味は「食事」「食事法」です。
(※※)人類が農耕をする前の、原始時代の食生活を食事法にまとめたものが「パレオフード」です。